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From the clifftop

風の化石 ~髙瀨久子さんのお話~

ご主人の作品の中にたたずむ髙瀨久子さん。
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今回のスペースkujiraのオープン記念企画展・『風の化石』の作品の作者である髙瀨省三氏は既にこの世にはいません。病気により命の限りを告げられてからそれまで日本画家として活躍していた氏は海辺に赴き、時には身の丈ほどの大きな流木にチェーンをかけて持ち帰り、その流木にさまざまな彫刻を施したのだそうです。そんな髙瀨氏を支えてこられた奥様の久子さんは、初めてお会いしたにもかかわらずいかにも門外漢な私にも親しく在りし日のご主人のことを話して下さいました。


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ひとつの作品をどのくらいの期間で仕上げられたのですか と久子さんに伺ったら

「そんな、ひとつずつじゃないんです。もう同時進行でいくつもいっぺんに。」と微かに微笑んで教えて下さいました。

「ホスピスに入ることすら嫌がったの。
『だって、ホスピスって     生きることをあきらめた人が行くんでしょう』
って言うのよ。」

「でもね、さいごはお医者さんも彼のさまざまな思いや姿勢に惚れてくれて、『うち(お医者様の自宅)に来なさい と言ってくだすって、もうベッドから何から受け入れる準備を完璧にしてくれたのよ。信じられる?普通、そんなことあると思う?」
まだ終末在宅治療 といったものが確立される以前のことだそうで、お医者様がそう申し出てくれたことに久子さんは本当に驚いたそうです。それはきっと、髙瀨氏の生き切ろうとする姿がその生命を支える役の人の心を本当に捉えたからなのでしょう。

俳優の緒形拳さんががんで亡くなったばかりでもあり、久子さんは緒形さんの名前を口にされ、また、遺作ともいえるドラマもご覧になったそうで
「あの、緒形さんという方も多分頑固だったと思いますよ。最期まで  ねえ。
 ええ、(髙瀨氏も)頑固 頑固でしたねえ。」と一枚ヴェールの向こう側で笑うような微笑を見せて仰いました。


私の母は病弱で、私が物心ついた頃からいつ死んでもおかしくない と言われて続けてきたのですが<憎まれっ子世にはばかる>だか何だか知りませんが、今現在もなんだかんだと(弱いながらも)元気にしています。
その母が、私が結婚した頃からでしょうかよく口にするようになったのは
「人は病気で死ぬんじゃないのよ。たとえどんな病気になったとしても、その人の寿命で死ぬのよ。」という台詞です。

久子さんのお話を伺いながら、その母の言葉をふと思い出していた私でした。

髙瀨省三 という人がその命の燃え尽きる瞬間まで何を考えていたのか それはきっと誰にもわからないことなのでしょうが、作品から私が感じた空気はあまりにも静謐で、死を目前にした人間は(その捉え方は千差万別だとは思うのですが)なんと透き通ったものを見据えていたのだろう と打たれました。奥様の静かな語り口調からも、例えば『生への執着』といったものが髙瀨氏にあったとは感じられなかったのですが、その執着さえも昇華されてしまったのかもしれない流木から生み出された人や動物達は

そう 中庸 という空間に浮かぶ不思議のもの のような

同時に圧倒的な感動を私の心に揺り起こしてくれました。



あまりに稚拙な感想と画像でしか表せないのがなんとも歯痒いのですが、やはりこういうものは実際に見て感じ取ったその力が一番強いと思います。少しでも興味を覚えて下さった方は今月一杯の展示だそうですので是非足を運んでご覧になってみて下さい。

そうそう、私達はちょうど夕暮れが始まる時間に見たのですが、作品は昼間の光より夕暮れの光がとてもとても合うと思いました。
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by sur-lie | 2008-10-12 23:43 | Joy of life
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